花火の後に



今野の最期にやり残したことは西部講堂でのイベント、最期に花火は上がるのだろうか―ペヨトル・ファイナルイベントを取材したNHK-BS2「新・真夜中の王国」でナレーションがそう言っている。京大西部講堂には間に合わなかった、蔡国強さんは、箱根の森美術館で本に火薬でドローイングをしてくれた。蔡国強さんの花火のイメージと、解散日記に書いた、私のカバラ占い。私の死んだ時には花火があがってみなが祝福してくれる運勢にあると書いたことからくるイメージだろう。花火は上がった。成功は観客の満足度とたくさんの人の助けと好意に支えられて成立した。本当にたくさんのボランティアの人たちが助けてくれた。人の無為の助けをベースにイベントができあがるという経験がなかったので、大いなる驚きがあった。そして花火が上がった後に私の考えは変った。
いま一つのプロジェクトに関わっている。東京、大塚に同潤会アパートがあって取り壊しの危機に陥っている。表参道の同潤会アパートも建て替えが決まった。同潤会アパートはどんどん消えていく。建築学会から人を介して、保存運動を喚起するイベントが何かできないだろうかと聞かれた。短期間のアートイベントをして人々にアピールしたらよい。私は即答した。京大西部講堂の時のようにたくさんの人が寄り集まってくれば何とかなるのではないか。直感でそう思った。
2002年12月一杯までは調査のために建物の解体作業は行われないが、それ以降のことはどうなるか分からない。アートでイベントをやろうと提案すると意外な反応があった。アートには終わりのイメージがあるからマイナスではないのかと。代官山同潤会アパートの取り壊し前にもアートのイベントがあったが、建物が取り壊される前に必ずアートが登場するという先入観念ができてしまっている。アートには再生の力がある。それはドイツのカッセルやミュンスターを挙げるまでもなく、都市の再生にアートは力を発揮してきた。日本で余り例がないからかもしれない。今回のイベントで成し遂げたいことはいろいろあるが、まずアートが都市の再生に必要だということを実証したい。
そしてもう一つは、ボランティアをはじめとする、多くの人の協力を広く募って建物の取り壊しを阻止したいということだ。この建物が残った方が良いと思う人、この建物を再利用してみようと積極的に思う人が出てはじめて運動は成立する。アートや建築の専門家たちだけでこのイベントは成立しない。これまでアートや建築に興味がなかった人が多く参加して、あるいは見に来てもらってはじめて保存/再生のプログラムは現実化する。
イベントは小倉正史、原万希子、新堀学、そして私を中心にした実行委員会で進行している。現在のところ、梅津和時/黒川未来夫/駒形克哉/斉藤美奈子/須田悦弘/永島京子/東恩納裕一/ピエール・ジネール/三田村光土里/宮本隆司の参加が決定している。それぞれこのイベントの主旨に賛同して手弁当で駆けつけてくれた作家達だ。関東大震災の後に当時の最新技術だった鉄筋コンクリートで作られ、特にこの大塚同潤会アパートは女子専門の住居だった。
賃貸料が平均初任給の3倍もした都営のアパートで、地下にシャワールームがあり、屋上にサンルームがあって、都市型の共同生活を提案していたようだ。この5月に最後の住人が退去したが、その時まで女子専門のアパートだった。作家の人たちは、この大塚女子アパートの歴史と特色を活かして作品を作ってくれる。会期は今のところ2002年12月13日(金)-15日(日)を予定している。
保存が成功したら、この建物をアーティストのレジデンス施設にしたらよいのではないかと考えている。改造は最低限のものにして建物の雰囲気をそのまま伝えていきたい。改造するあまり、元の雰囲気を失っている横浜レンガ倉庫のようにはしたくない。古い倉庫をそのままに使う、それはアートならできることなのだ。もちろんここでいうアートとは本当に広義のもので、この建物に小説家が入っても良いし、大道芸の芸人が住んでも良いし、演劇人、ダンサーなど、広く創造活動をする人に開放する施設であって欲しい。2マイナスにサイトがあるので興味のある人はぜひ見て欲しい。予算のないプロジェクトなので多くの人の助けを求めている。どんなドネーションでも、どんな協力でも良いのでぜひ声をかけていただきたいと思う。ちなみに、同潤会アパートの保存、再生は今のところ一つも成功していない。

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◆NHK-BS2「新真夜中の王国」https://www.nhk.or.jp/midnight/stock/14/mid0606.html
◆アパートメントapartment http://www.2minus.com/apartment/
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ペヨトル工房 http://home.att.ne.jp/surf/hilon/peyotl.html
2-:+ http://www.2minus.com
Peyotlfan   http://www.thought.ne.jp/peyotl
ペヨトルイン西部講堂2002   
http://www.yo.rim.or.jp/~hgcymnk/peyotl/index.html
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.rim.or.jp/~hgcymnk/peyotl/index.html