解散日記27

 

 10月09日

 8 1/2 エイトアンドハーフ

 

「エイト・アンド・ハーフ。はっかにぶんのいちじゃないってことは、フェリーニじゃないんだね。」

「フェリーニって何ですか? ところで履いているプラダスポーツの靴かっこいいっすよね。」

若いアシスタントは店の名前よりも靴に興味があるようだ。もう2ヶ月もほっておいたので、むらむらになっている髪の毛を脱色しながら、店の名前の由来を聞いてみたんだけど、やっぱりね。緑から白色に頭髪の色を変えたのはいいんんだけれど、脱色のたびに頭が痛くなるので知りあいに教えてもらった8 1/2という美容室に切り替えて4回目。染めも脱色もカットも上手だ。しばらくここに落ち着きそうだ。慣れてきたので店の若い子と仲良くなっている。

「カットはどんなにします?」チーフが来たので同じことを聞いてみた。「映画じゃないっす。ほら人間って完全になったら終りじゃないですか。その1歩手前が一番カッコイイ。だからエイトアンドハーフなんです。中国では9は最高の数で完全でしょ。」

「なるほどねー。デザイナーの毛利臣男さんがチベットだかへ行ったときに、綺麗な織物の最後の糸をくちゅくちゅと変なふうに止めているのを見て、これは綺麗にカットしたほうがいいんじゃないですか? と言ったら、完全は神です私たちは完全を目指しますが完全になったら駄目なんです。と答えが帰ってきたけれど、まさにそれがものを作る姿勢だと思うんですよと教えてくれたことがありますよ。それですね。完全の1歩手前。」

エイトアンドハーフは、アシスタントの子たちも自由な服装をしていて、それでいて礼儀正しい。でもおざなりじゃなくいろいろ話しかけてくるので、脱色にかかる長い時間も飽きることがない。この間、ゲーセンのゲームの話になって、昔々あったR-Typeというのが好きで上手だったとぼそっと言ったら、今日、そのアシスタントの子が、古いゲーセン集めているところでやってきました。すっげーマニアックで難しいっすね。だって。

エイト・アンド・ハーフは、個性的な髪形をお客さんにしてもらいたいがためにやっていると。利益のためだけじゃないんだといっている。ボクたちのカットしている髪形は、10人に1人とか2人とかの理解者しかいない。でもやっていくんだと言っている。でも凄くはやっているのよ。エイト・アンド・ハーフは。表参道に大きな店をもって。昨日なんて予約で一杯で入れなかったんだから。やりたいことをやりながら、経営もがんばっている人たちもいるんだな。今日は、元気つけられたぞ。



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