解散日記56

 9月14日

 

 ペヨトル工房の完全停止の日が近づいている。本当は、もう終了しているはずなのだが、最終出荷と、在庫確認に思いがけず時間がかかっているからだ。それでももう終わるだろう。遅くても10月中旬には。

 週刊文春に取材された記事がでた。上手にまとめられている。さすが文春。著者と60分というタイトルだけど、3時間はしゃべっていたかな。中にも少し書いたけれど、30代中ごろから少し下の人たちが、ペヨトル工房をいま最も惜しんでくれているのかもしれない。地方でペヨトル工房の活動を何となく知って、東京に来てみたらもう静かになっていて、そのまま会社で堅気をしていた、そんな人には、体験しそこなったことを含めて何かの郷愁があるではないだろうか。不思議な感覚がある。ヴァーチャルな人気。

 取材記者も文春の人で、本来は外部のライターに発注するところ、自ら志願したらしい。どうしてもやりたいって。歳は? 30代半ばでした。ペヨトル工房がちょうど情報のバーチャル性と現実が微妙にミックスしている世代だ。これが30歳から下になるとヴァーチャルだけなのでペヨトル工房に対する感覚がまったく異なってくる。というか知らない人の方が圧倒的に多い。

 今回のアメリカへのテロは、様々な意味で世界を変化させるだろう。テロによって世界を転覆させるという幻想がこれほどまでに現実を侵犯したことはかつてないだろう。このテロは経済テロであり、これほどまでに効果的だったテロはかつてない。

 アメリカの株価が最大の下げ攻防をする日に、世界の市場がかたずを呑んでアメリカの株価の成り行きを見ている日に、日本はどうやって株価1万円を切る日を先延ばしできるか考えている日に、テロは行われた。計算された日だ。そしてトレーディングの始める少し前という計算された時間だ。アメリカを中心とする経済恐慌を狙って。

 作戦を組んだのは誰だ。ロス・ブラウン(フェラーリ)、フィル・ジャックスン(レイカーズ)か?知りたい。ブッシュが頭が良かったら、これはアメリカと自由主義諸国(古いな……)に対する経済テロである。アメリカのプライドにかけてテロリストは許さない、そして株が暴落するというようなテロリスト達の思うがままにはならない。と、言ってアメリカ国民を煽って株の下落を抑えるようにするんだがな。

 もちろん、かつてと異なって制御装置のついている現在の市場では、ブラックマンデーのようなことはないだろう。それでも日本は一気に9600円まで下落した。第一危険水域の9800円を軽く割り込んでいる。飛行機2機でこれだけのことができているのだ。テロリストだけが株価の下落を知っているのだからあらかじめ市場に仕込みをしておけば、また次のテロ用の資金が手に入る。そんなことすら思ってしまうほど用意周到なテロだ。

 テロと言うのは、現代美術のような象徴的行為だと思っていたら、結果だけを狙って、そして鮮やかに達成するようなことが可能な時代になってしまったのだ。アマゾンコムは売れているという幻想によって株や広告や二次的なもので利益を考えている表の社会は、バーチャルの方から現実世界へ少し顔を出す構造によってITバブルを作り出した。バーチャルなバブルなのである。そのときテロリストは逆手をとって、現実(貿易センタービル)のほうからバーチャル性を帯びた株世界(トレーディングの破壊とイメージの下落)へ向かって破壊行為を行ったのだ。

 石井隆の『魔楽』はM事件の遥か以前に描かれて、しかし現実を先取りしていた。そしてM事件は、広く日本に伝播していった。いやそうじゃない単に時間がずれて多発しただけのことだ。これは幸せな関係だった。幻想が現実を先取りしていたからだ。これからは現実が幻想に先行して表れるようになるかもしれない。リアルな作戦家が夢を見る前に夢の様なことをしてしまう。想像力と幻想を商売にしていたメディアはどこかヴァーチャルである。お手上げだ。



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